活動の歩み

仁王門プロジェクト:時を超えた文化の再生

島根県奥出雲町の古刹・岩屋寺から海を渡り、アムステルダム国立美術館に収蔵された仁王像。そして、その仁王像の「魂」を故郷に返そうとするオランダ人彫刻家イェッケ・ファン・ローンさんの情熱から始まった国際的なアートプロジェクトの物語です。
岩屋寺の仁王像と奥出雲の人々の間に存在していた深い絆を再び結び、封印されていた寺の歴史を紡ぎ直す――。このプロジェクトは単なる文化財の保存活動ではなく、国際交流、地域活性化、そして人と人との心の交流を生み出してきました。
ここでは、2013年のイェッケさんと仁王像との出会いから現在に至るまでの道のりを振り返ります。

2013年:運命の出会い

オランダの彫刻家イェッケ・ファン・ローンさんが、アムステルダム国立美術館で奥出雲・岩屋寺から来た仁王像と出会います。美術館に展示された仁王像に深く感動する一方で、本来の役割である「門番」としての機能を果たせていないことに違和感を覚えました。
この年、アムステルダム国立美術館のチーフキュレーター・メノー・フィツキさんの尽力により、仁王像の開眼供養式が執り行われ、像に魂が吹き込まれました。

2015年:故郷への旅

イェッケさんが初めて奥出雲町を訪れ、岩屋寺の仁王門を訪問。700年近くも寺と村を守ってきた仁王像が突然姿を消し、地域の人々が大きな喪失感を抱いていることを知ります。
この体験から「アムステルダムの仁王像をここに戻すことができないのなら、せめてその魂だけでも返したい」という思いが生まれました。

2018年:プロジェクトの始動

イェッケさんが「Issho-ni/Tomo-ni(re-creating pure wisdom, together!)」と銘打ったアートプロジェクトをスタート。オランダの伝統工芸デルフト焼きの技術を用いた新しい仁王像「ブルーNio」の制作に着手しました。
アムステルダムと奥出雲の両地を拠点に、地域の人々を巻き込みながら、540枚のタイルに等身大の仁王像を描く共同作業が始まりました。

2019年:共に創り上げる仁王像

日本とオランダの住民約400人が参加して、「ブルーNio」のタイル絵付けが行われました。「いっしょに、共に」というプロジェクト名のとおり、国境を越えた共同制作として進められました。
11月23日、完成した「ブルーNio」が奥出雲町に贈呈され、地域の人々に迎えられました。2体の前面と背面、合計4つのタイル画が完成し、本町会館に展示されることになりました。

2020-2021年:コロナ禍を超えて

世界的なコロナ禍の影響で活動が一時中断されましたが、「仁王門プロジェクト」として再始動。崩壊寸前だった岩屋寺の仁王門を改修し、ブルーNioを安置するための準備が進められました。
また、「Nioフェスティバル」という文化交流イベントが立ち上げられ、奥出雲とオランダの絆を深める試みが始まりました。

2023年:岩屋寺の新たな1ページ

第3回となる「Nioフェスティバル」が開催され、地域の理解と支援の輪が広がりました。
長年タブー視されていた岩屋寺の土地所有者が明らかになり、大阪の建設会社経営者・鈴木道廣さんがイェッケさんに岩屋寺とその土地の所有権を譲渡。「岩屋寺に対する町民のタブー視を払拭したい」という思いから、イェッケさんのプロジェクトを全面的に支援することになりました。

2024年:再生への具体的な一歩

4月、市民団体「奥出雲の風と土を紡ぐ会」が結成され、「ブルー仁王の、その先へ」をキャッチフレーズに、仁王門の再建築と維持管理体制の検討が始まりました。
仁王門は老朽化が進んでいたため、一旦解体して部材の修復を行うことに。京都建築専門学校の学生たちと地元大工チームのコラボレーションで解体作業が行われ、修復は京都専門学校の宮大工と学生たちが担当することになりました。
6月には、オランダの男子高校生4名が奥出雲町でホームステイしながら約10日間滞在し、横田高校生などと交流。仁王門跡地の整備作業にも参加しました。
7月、「仁王門プロジェクト横田」が第729回「小さな親切運動」実行章を受章。草の根レベルでの日蘭交流活動が評価されました。
10月には奥出雲町芸術文化祭に出展し、山陰中央新報の連載「縁~時空を超えて。岩屋寺から消えた仁王像」や、解体式の記録ドキュメント映像を紹介しました。
11月、第4回「Nioフェスティバル」が「本町通りフェスティバル」と同時開催され、地元住民も参加しやすいお祭りとなりました。仁王門跡地には地元民アートチームと協力して竹を使った「バンブーNIO-MON」を制作。オランダ総領事も来賓として参加し、オランダの美大生を招いてアーティスト・イン・レジデンスも実施されました。

2025年:万博への出展と新たな門出

1月、オランダ大使館文化部副部長のバス氏が奥出雲を初訪問。大阪・関西万博のオランダパビリオンへの出展に向けた準備が進められました。
2月、大阪・関西万博のオランダパビリオンでの「ブルー仁王」出展が正式決定。奥出雲町立横田中学校2年生35名の修学旅行に合わせ、10月1日に展示発表会を行うことが決まりました。また、サテライト展示として9月に京都アニュアルギャラリーでの展示も決定しました。
大雪の奥出雲にイェッケさんが再び滞在し、タイル1枚1枚に宿る物語を記録するブックレットの制作作業を行いました。
10月13日、第5回「NIO-FESTIVAL」開催予定。修復・リノベーションした新しい仁王門にブルーNioを安置し、国立アムステルダム美術館の仁王像前と中継でつないだフェスティバルイベントが計画されています。

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